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肺MAC症(肺感染症)

肺MAC症(肺感染症)とは

肺MAC症は、MAC菌という非結核性抗酸菌による慢性的な肺感染症です。MAC菌は土壌や水環境に広く存在する細菌で、健康な人でも日常的に吸入していますが通常は感染に至りません。しかし、何らかの要因により免疫力が低下していると肺炎を引き起こします。

近年、日本では肺MAC症の患者数が増加傾向にあり、特に中高年女性での発症が目立っています。当院では、適切な診断と治療により、患者さまの症状改善とQOL(生活の質)の向上を目指しています。

肺MAC症と結核の違い

肺MAC症は緩徐に進行して無症状の期間が長く続くことに対し、肺結核は比較的急速に進行することが多いです。治療についても、使用する薬剤や治療期間が大きく異なります。
また、肺MAC症のMAC菌は人から人への感染はしない一方で、肺結核は結核菌による感染症で人から人への感染が起こる点も違いのひとつです。

肺結核について
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肺MAC症はうつる?
原因と感染経路

肺MAC症は人から人へうつることはありません。MAC菌は自然環境中の土壌や水、浴室などに広く存在しており、これらの環境から吸入することで感染が起こります。そのため、肺MAC症の患者さまが家族や周囲の人に感染させる心配はなく、隔離や特別な感染対策は必要ありません。
ただし、個人の体質や免疫状態により感染しやすさには差があるため、予防対策は重要です。

肺MAC症になりやすい人の特徴

肺MAC症は特定の特徴を持つ方に発症しやすいことが知られています。発症リスクを理解することで、早期発見や予防対策につなげることができます。

肺MAC症になりやすい人の特徴
  • 中高年の女性
  • 慢性肺疾患(COPD、気管支拡張症、肺気腫など)の既往がある方
  • 免疫機能が低下している方(糖尿病、悪性腫瘍、免疫抑制薬使用中など)

肺MAC症は無症状の場合も?
症状をセルフチェック

肺MAC症の初期段階においては無症状で経過することが多く、健康診断の胸部レントゲン検査で偶然発見されることも少なくありません。症状が現れる場合も、風邪や他の呼吸器疾患と似ているため、見過ごされやすいのが特徴です。

主な症状

主な症状
  • 慢性的な咳
  • 痰が出る
  • 微熱・発熱
  • 倦怠感
  • 体重減少
  • 血痰 など

肺MAC症の検査方法

画像検査

胸部レントゲン検査やCT検査により、肺の炎症や構造的変化を評価します。肺MAC症では特徴的な画像所見が見られることが多く、診断の重要な手がかりとなります。

喀痰検査

痰の中からMAC菌を検出する検査です。さまざまな検査方法を組み合わせて診断を確定します。MAC菌は増殖が遅いため、培養には時間を要することがあります。

気管支鏡検査

喀痰検査で菌が検出されない場合や、より確実な診断が必要な場合に実施します。気管支鏡を用いて菌の検出を行います。

肺MAC症の治療方法

肺MAC症の治療は、症状の程度、病変の進行度、患者さまの全身状態を総合的に評価して決定します。

薬物療法

薬物療法MAC菌はもともと薬剤の効きにくい性質があるため、肺MAC症の治療は複数の抗菌薬を組み合わせた多剤併用療法を行います。治療期間は長期間にわたることが一般的です。
以下の3つの薬剤を使用するのが一般的です。

薬剤名 特徴
クラリスロマイシン 抗生物質で、アジスロマイシン(AZM)で代用することもあります。
エサンブトール 抗結核薬で、視神経へ影響を与える可能性があるため、服薬中は定期的に眼科での検診を受けていただきます。
リファンピシン 抗結核薬で、服用により尿や汗がオレンジ色になることがあります。肝機能への影響が出る可能性があるため、注意が必要です。

これらの薬剤を組み合わせることで、MAC菌に対する治療効果を高め、薬剤耐性の発生を防ぐことができます。
治療開始から1〜2ヶ月は、副作用(発疹・肝機能障害など)が出やすいため、頻回な通院と検査が必要です。治療の効果は、一定期間服用した後に、レントゲン・CT・喀痰培養検査などを組み合わせて評価します。

薬物療法の考えられる副作用

消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸障害が現れることがあります
視神経障害:エタンブトールによる視力低下や色覚異常に注意が必要です
肝機能障害:定期的な血液検査により肝機能の監視が必要です

手術療法

病変が肺の一部に限局しており、その部分のみを切除することで治癒が見込める場合には、手術による治療が選択されることもあります。手術が必要と診断した際には、専門医療機関と連携し、適切な治療を提供いたします。
当院では、手術が必要かどうかを含め、患者さま一人ひとりにとって最適な治療方針を、丁寧にご説明させていただきます。

肺MAC症の日常生活の注意点

感染予防対策

肺MAC症の再感染や病状悪化を防ぐため、日常生活では以下の点に注意することが重要です。

  1. 浴室やシャワーの清潔保持と十分な換気を心がける
  2. ガーデニング時はマスクを着用し、土壌の粉塵を避ける
  3. プールや温泉など、菌が繁殖しやすい水環境での長時間の滞在を控える

生活習慣の改善

免疫力の維持と肺機能の保持のため、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが大切です。また、禁煙は肺の健康維持に重要で、治療効果の向上にも寄与します。定期的な通院により病状の変化を確認し、医師と相談しながらライフスタイルを調整していくことが重要です。